迷子のお宿

 ヒサカは離れの奥に黒い着物を着た子どもを見つけた。
「君っ」
 ヒサカはその子に駆け寄った。子どもはじっとヒサカのほうを見ている。
「やっと追いついた」
 ヒサカは子どもの前で足を止めた。子どもに笑いかけるが、子どもの表情は変わらない。
「びっくりしたよ。急にどこかへ行ってしまうから」
 子どもは何も云わない。ヒサカは辺りを見回す。
「ここはどこ?」
 子どもは答えない。
「君の部屋?」
 子どもは答えない。
「君の名前は?」
 子どもは答えない。ヒサカは首を傾げる。
「名前、無いの?」
 子どもは首を横に振る。ヒサカはパッと顔を明るくする。
「じゃあ、教えて」
 子どもは答えない。子どもは振り向いてヒサカに背中を向ける。ヒサカは不思議に思う。
「どうしたの?」
「終わった」
 子どもが初めて口を利いた。
「皆見つけた。これで遊びはお仕舞い」
「え?」
 子どもは振り返った。長い髪のせいで子どもの顔は見えない。
御蔭様(おかげさま)は子どもが大好き。お堂に子どもを招いて一緒に遊ぶ。皆と一緒に楽しい時間を過ごす。――でも」
 黒い着物の子どもは一歩踏み出した。
「もうお仕舞い。皆見つけた。皆捕まえた。だからお仕舞い。次に子どもが来るまでお休み」
 子どもはもう一歩踏み出す。ヒサカとの距離が徐々に縮まる。ヒサカは慌てて一歩下がった。
「だから」
 子どもがもう一歩踏み出す。ヒサカも同じ距離だけ下がる。
「今度は」
 子どもがもう一歩踏み出す。ヒサカも下がろうとして足が何かにぶつかった。入り口の障子(しょうじ)だ。部屋の一番奥にいたはずなのにいつの間にかヒサカは離れの入り口にいた。
 子どもが自分の長い髪を払った。その下から子どもの髑髏(どくろ)が覗いていた。
「君の体を貸して」

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