迷子のお宿

「親分」
 廊下の向こう側に声をかける子どもがいた。黄色の着物を着て、深緑の帯を締めている。後ろでは雨音がうるさいくらい響いている。
「どうした」
 声を聞きつけて二人の子どもがやってきた。一人は青い着物の(そで)(まく)って、藍色の帯を締めていて、着物も帯も酷く()せている。もう一人の着物は継ぎ()ぎが多くて統一感がない。帯は地味目の黒にしてある。三人の中で一番横周りがある。
「どうしたキヨ。何か見つけたのか」
 青い着物を着た子どもが訊ねる。キヨと呼ばれた黄色い着物を着た子どもが頷く。
「もちろんです親分。見てくだせ、ここから入れるみたいですぜ」
 二人はキヨの指差すほうを見つめる。どうやら引き戸のようだ。二人が目を輝かせている中で、体格のいいもう一人はあまり乗り気ではない。
「やっぱり止めようよ、ヤンムくん。何か出るかも」
「何言ってんだよ」
 叱咤(しった)の声を上げたのはヤンムと呼ばれた青い服を着た子どもだった。キヨも賛同する。
「親分の言う通り。そんなに怖いなら、クル、お前だけ帰れよ」
「そんなー」
 情けない声を上げるクル。三人の背後を無情にも雨が降り注ぐ。弱まる気配は無いようだ。
「そんじゃキヨ。お前先行け」
「え〜!俺っすか?ここはクルに行かせるべきでしょう」
「こいつが使えるかよ。早く行け、まさかお前、ビビッてんじゃねーよな?」
「も、もちろんっすよ。クルみたいな臆病者と一緒にしないでくだせえよ」
「じゃあ行け」
 後の無くなったキヨ。仕方なく、キヨは引き戸に手を掛けた。長年使われていないせいか、立て付けが悪くなかなか開かない。
「開きやせんね」
「ホントか」
 ヤンムが力一杯扉を引いた。その勢いで扉は呆気なく開いてしまった。
「開いたぞ」
 ヤンムに睨まれて、キヨはゆっくりと中の様子を窺う。
「さっさと行け」
 ヤンムに押されて、キヨは暗いお堂の中に投げ出された。廊下の軋む音が酷く耳に響く。キヨは慌てて顔を上げた。お堂の中は真っ暗で何も見えない。キヨの足元には一本の廊下が左右に伸びていて他には何も見えない。
 キヨが少し歩くと(ふすま)が見えた。長いこと掃除をされていないせいで埃を吸って汚れていたが、目立った傷も見られず、わりと保存状態はいいらしい。
「親分」
 キヨはすぐに二人のいる場所へと引き返した。
「どうした」
「奥に部屋を見つけやした」
「ホントか。中はどんな感じだ」
「あー……」
 キヨは一瞬言葉に迷った。そしてすぐに云った。
「とにかく来てくだせ。すごいもんがありやしたぜ」
「よし、行ってみよう」
「ま、待ってよー」
 二人はキヨの後をついていく。襖で閉ざされた部屋まで来ると、ヤンムはキヨとクルの前に立って襖を開けた。

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